狩猟とは (第十四話)

若かりし猟者はその時(上)


遠く過ぎ去った日々に思いを馳せると 浮かび上がる

幾つかの場面がある 成し遂げた達成感自己満足とは

無縁で苦笑を押し留められない記憶・・・・。 

何かを続けて行く事は 成就の感動より 打ちひしがれた

刹那!人への思慕と似て 経過が稚拙で幼稚なほど

我が身がいとおしく 微笑ましく思えて来るものだ
此処から綴る出来事は 長い猟師生活でも口にした事は無かった

其れはまだ初年兵等と呼ばれていた 1975年か76年 年の瀬も押し迫ったある日 仕事だ猟にと明け暮れて

余裕無き日々を続け 若かった私も流石に心身共可也疲れて居た  其れでも旺盛な猟欲に引き摺られるように

まだ現役だった猟界の親父竹内さんと共に 峰々が望める麓にある親方タケさんの家へと向っていた 当時の

猟は 現在の身近に猪鹿が群れる状況には程遠く 其れを追う猟師も 限られる一握りの集団であったものだ

必然的に脚は奥地へと向き長い歩きを要する作業と成る  この日も約四時間を掛けた岳超の猟場目差した

猟が出来る時間は極限られて来るだろうし 思いがけず多くの猟果が授かれば 一人一頭分のノルマを背に

同じルートを戻らねば成らない  崩れた登山道を進む一列縦隊の一行は 当時60代の親方タケさんを中心に

50代の竹内さん 30代の親方次男と甥 そして先頭を行く20代の私 其処に昔からのベテラン何人か加わる

何時もの構成だった 主峰の稜線を縦走して行くと一際大きめな鞍部に跳びだす 小潅木に覆われた一帯は

背の高い笹藪が生茂り 地理を熟知してなければ己の現在地を見失いかねない  笹を分け腰を下し一息付くと

タケさんの命が下った  本隊は此の侭稜線を上がり 要所に待ち場を配し 裏側向けて張り出す大尾根向こう側

其処から勢子を入れる大凡そんな説明だった  其処で別れた私は一気に裏斜面を駆け下り 大谷源頭部目差す

この頃はまだ無線機を使い切らず 全員による阿吽の呼吸で動いていた 自らのスタンバイが一番最後と確信

していた私は 解き放たれた犬の様に ガラガラの山肌を滑り落ち跳ぶ 其れは逃走する鹿を先回り 迎え撃ちに

入ったりの離れ業も出来た時代 何せ若かったのだ・・・     別れ際タケさんが言い渡した言葉を思い出す?

「のう その先で出会う谷其処を遡ると ちょっとした滝に出会う その頭に出て お前の良かれと感じた場所そこで

待ちを構えてみぃ・・・」

源頭部には良くある 青々としたなだらかな草付きを

抜け か細い谷を見止めると 迷う事無く這いあがる

「あれか?」 落差4mばかりの黒い岩盤剥き出しの滝

落水は申し訳程度のチヨロチヨロで伝わり落ちる 

右手の岩場に貼り付くと 一気に滝頭へと乗り越えた

「ハァハァハァ・・・」荒い息を吐きながら辺りを見回すと

成る程!此処までのきつい斜面を考えれば きっと鹿は

緩くなだらかな此処を選ぶに違いない ならばそいつを

迎え撃つべしと やや控えた 丁度良い石に腰を下した

   ・・・・・狩猟とは(第十五話) 若かりし猟者はその時(下)に続く・・・・・ 

                                                         OOZEKI